《人から好かれる詐欺師になれ!
お前が経済的成功を求めるのであればな。》
GW中に、いつもお世話になって居るススキノのBarで、たまたま横になった男性が居た。
御歳65歳。聴けば初老のリタイア組で、いつも昼間からこうやってBarでスコッチを飲んでいるらしい。マスターの忠さんとは顔馴染みで、他愛もない会話を楽しんでいる。敬意をこめて旦那と言おう。僕もこちらのBarにはライブで良くお世話になっていて、GW期間中の昼間も開放しているとの事でたまたま行ったんだ。
その際に、俺の話になった。
旦那:《兄ちゃんはいくつなの??》
俺:《今年で35歳になります。》
旦那:《ほ~35歳か!いいな~若いな~~。仕事は??》
俺:《フリーで経理をやっているんですよ。その他にも、福岡から来た人間の立場として北海道の魅力をアジアの方々に知って貰いたいと思って色々活動してます。でも実は、10月に実家に帰る事になっちゃって……》
旦那:《そうかい。なんか中途半端だな。福岡からわざわざ来たってのによ、1年足らずでトンボ帰りかよ~。》
マスター忠さん:《旦那、こいつ実はこう見えても東大大学院出てるんですよ!しかもその前に早稲田の大学院もその前に出てるんだよ。すげえだろ…》
旦那:《東大!!??ま……マジなのか、お前!!??そんな奴が本当に居んのか??》
俺:《忠さん………、よしてくださいよ(笑)。まあ、そうなんです。こんなナリなんですが。そういう旦那は何をされているんですか??》
どうも肩書の話には慣れない……。話を反らした。
旦那:《俺はいわゆるこの辺の不動産を所有してるんだ。若い頃に頑張って全部自分で買ったんだ。》
俺:《凄いですね!!東大出るよりも、その方が凄いですよ!!!》
旦那:《バカやろう(笑)。若い頃はマジで頑張ったからな。こう見えてもブイブイ言わせてたんだぞ。当たり前ぇだよ。ちなみに俺の学歴は、中卒だ。お前の正反対だな。》
俺:《ですね。》
旦那:《“ですね。”じゃねえだろ、お前(笑)。観たところ、お前さん育ちが良いな。そりゃあそうだべな。早稲田行ってから東大の大学院まで行っちまうんだもんな~~~。ご両親大したもんだよ。花高いはずだろ。で……そんなお前がなんで35歳を迎えてこんなところで燻(くすぶ)っているんだよ??》
俺:《……実は私は、34歳を迎えて1回自分で勝負してみようと思いましてね。それで去年の7月に札幌に来たんです。》
旦那:《自分で勝負ってのはどういう事なんだろうな?大学院2つも出てんだろ?フツーはお前、外資に務めたり色々エリート街道があるだろう?お前が月幾らもらってるのかしらないがな、さっき聞いた仕事じゃ大した稼ぎにならんだろう。
俺の稼ぎははっきり言ってお前の稼ぎの何倍も上なのは“事実”だ。これ分かるよな??》
俺:《はい。僕も大学院で色々勉強したんで、分かりますよ。ビジネスオーナーは、儲かりますもんね。ビジネスオーナーは、誰よりも立場が上ですからね。》
旦那:《そうだ。だが、そんな合い話の為に言ったんじゃねえ。お前いいか…、俺が言いてえのはな、何で早稲田・東大を出たお前がこんな所で燻(くすぶ)っていて、中卒の俺がビジネスオーナーで適当な話をしながら真昼間っからマスターの忠とバカ話出来るのかって事なんだよ。お前、そんだけの学歴持ってんだったら、何でも一見出来そうじゃんか??何やってんだ???》
俺:《……………………………………》
旦那:《あのな、もう一回訊くがな、お前がさっき俺に言った“自分で勝負”ってのはどういう事なんだ??俺は若い頃何も財産が無かった。家も普通だったしな。だから、めちゃくちゃ働いて不動産オーナーにまでなったんだ。俺たちの頃は高度経済成長期でな、一点集中で頑張れば、行けるとこまで行けたからな。そしてその後のバブルで一気に弾けきれたんだ(笑)。他の奴らは泡と同時にはじけ飛んじまったがな。ははは!!!》
爽やかな笑いだった。嫌味を全然感じさせない。
旦那:《兄ちゃんよ…良く聴け……。俺はな、中卒だけどよ、不動産の営業のイロハも専門知識も全部仕事を通して身体で覚えたんだ。いま俺の立場だったら札幌の不動産の事なら一通りの事は分かるべ。目新しい情報は全部俺の耳に入ってくるからな。
兄ちゃんはこういう生き方じゃねえんだろ??兄ちゃんは、仕事ではなくて、会計を“学問“という概念で学んだんだ。》
俺:《はい…。》
旦那:《それもそんじょそこらの大学じゃなくて、早稲田・東大という一流大学で“学問”として学んだんだったら、かなり高度な質のものを学問として身に付けたはずなんだ。
これは中卒の俺でもわかる事だがな、俺たちビジネスは文系という概念に属するもんだろ?
俺が思うにな、文系でカタが付くもんはな、結局のところ学問じゃなくて身体で覚えるもんなんだ。
俺は35歳の頃は管理職だったけれど、身体で覚えた事しか伝えて来なかったぜ。
でも、兄ちゃんは違うんだ。
なんせ、ト・ウ・ダ・イ・大学院で学んだんだからよ!!
“学問”として身に付けた事であっても、たんなる知識じゃなくて、それ以外の汎用性があるはずなんだ。》
俺:《はい…………》
忠さんも、黙って頷きながら話を聴いている。俺のワイングラスにお代わりのワインを注いでくれた。
旦那:《でもな、お前はそれを100%活かせていない。
それどころか北海道くんだりまで来て、“自分で勝負”とか言ってんだろ??
俺にはどうにも分かんねえんだよな~~。
だってそれだけの学歴があればさ、ほかにいくらでも活かし放題じゃんかよ!てかそうしないとハッキリ言ってバカだべ、お前。
お前からはハングリー精神というか、貪欲さが感じられねえ。
ただ謙遜しているだけで、自分に与えられた価値というのがまるで分かっちゃいねえ。
俺なんか中卒だぜ!
中卒の俺に出来て東大卒のお前に出来ない事があるわけないじゃんかよ!》
俺:《……………………》
酒も入っているせいか、口調に熱が入っていた。
旦那:《これからの世の中はな、経済格差ってのはいよいよどうにもならなくなる。そこでグジグジ努力したところでもう手遅れだ。日本は資本主義国家だ。共産主義社会じゃねえんだよ。例え意欲のある若者が居てな、今のお前みたいに“俺自分で勝負します!”って気合を入れたところで誰も手助けなんかしてくれねえぞ!!資本主義経済社会で勝ち残るためには、勝てる戦略と相手のイメージに漬け入るって事が大事なんだよ。》
俺:《………………………………》
旦那:《だって東大大学院だろ????これ以上の武器がどこにあるんだよ??!!お前がな、もしこれから金持ちになりたいのならな、一つ教えておいてやるよ。》
俺:《はい、何でしょうか??》
旦那:《いいか…人から好かれる詐欺師になれ。》
俺:《……?!どういうことですか??》
旦那:《良いか?ビジネスってのはな、結局のところな、人様の期待に特別感を感じさせながら応えるって事なんだ。相手がな、お前に信頼を感じているんだったらな、大体の事が上手く行くんだよ。例えばお前が不動産の営業でな、お前が信頼されているんならな、不動産だって売れるさ。チャンスを掴みたいんだったらな、有効な人からの信頼が不可欠だ。それは人から好かれるとかいま流行りの愛されキャラとかじゃねえからな。》
俺:《ありがとうございます。同じ話を色んな所で聴きます。》
旦那:《同じ話を色んな所で聴きます、じゃねえよバカ野郎。同じ話何回も聴かされてんじゃねえよ。それは結局お前が変わってねえし。分かってねえって事だかんな。》
俺:《はい。》
旦那:《何の縁か、偶然な忠の店でこうやって知り合えたんだ。10月から親父さんのところに帰るんだったら猶更、お前が自分自身の事をよく考えろ。》
俺:《はい。》
旦那:《いいか……ペテン師じゃねえぞ。ペテン師は相手を騙して奪い取る奴らだからな。俺がお前に伝えたのは、あくまでも人から好かれる詐欺師になれって事だからな。ちゃんとこの辺分かっとけよ!》